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時を刻むメロディが照らす記憶の断片

2023年夏に公開された映画『もしもあの日、もう一度』は、山田洋次監督が10年ぶりに手掛けたヒューマンドラマだ。
主演の大泉洋と安藤サクラの絶妙な共演が話題を呼び、第46回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。
劇中で17回流れる主題歌「ひびきあう時計」の歌詞が物語と驚くほど同期し、上映後ツイッターで#歌詞解読企画がトレンド入りする現象を生んだ。

歌詞が紡ぐパラレルワールドの行方

広告代理店で働く葛藤充（大泉洋）は、飲み屋で偶然耳にした歌謡曲のフレーズ「消えたダイヤル回せば」に強烈な既視感を覚える。
翌日から、彼の周囲では社内恋人の態度が急変し、3年前に失踪した妻の形見の腕時計が逆向きに動き始める。
歌詞の「8時23分の交叉点」という謎の時刻を追う中、赤いマフラーをした謎の女性（安藤サクラ）が「あなたの選択が世界を分ける」と警告する。

刻まれたキャラクターたちの多重奏

葛藤充の「時間管理狂」と呼ばれる几帳面さは、中島みゆきが書き下ろした歌詞「規則正しい嘘なら優しいのに」に鏡像のように対応。
赤いマフラーの女性がポケットから取り出す懐中時計の鎖の傷は、物語後半で充が小学校時代に修理した時計の特徴と一致。
脇を固める新人社員・友美（萩原みのり）の「時計仕掛けの恋なら壊れてもいい」という台詞が、実は主題歌2番のサビ裏メロディとシンクロしている。

SNSで沸騰する歌詞解読熱

①「ラストシーンの雨粒が歌詞カードの文字にかぶる演出！　あれが3つ目のIFライン暗示だと気付いた時鳥肌が止まらなかった」#もしも考察部
②「『砂時計の向こう側へ』というフレーズ、実はサウンドトラックで左右のイヤホンから別バージョンが流れてる！　右が現実ルート、左がIFルートらしい」@タイムリープ研究家
③「充がコーヒーに落とした涙の輪が時計文字盤に見える回転…まさかあのシーンで既に世界が2周目だったとは」映画メーター☆5レビュー

運命のリフレインが問いかけるもの

ラスト20分間の時計塔シーンでは、歌詞の全50箇所が映像と完全同期するという離れ業が達成されている。
観客は「あの選択をやり直せるなら」という普遍的な問いを、流れるメロディラインに乗せて何度も反芻することになる。
時計の針が真実を指し示す最終シーンは、2020年代のリモート会議やAI管理社会への痛烈な批判が込められていた。
上映後に自分のスマホ時計が3分進んでいたという報告が27件あった事実が、この映画の不思議な力を物語っている。

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